デスクの上にタワーPCを置くスペースがない。でもBlenderで3DCGを始めてみたい。そんな動機でミニPCを検討する人が増えています。手のひらサイズの筐体に8コア16スレッドのCPUが収まる時代、「これでBlender動くんじゃないか?」と思うのは自然な発想です。

結論から言うと、ミニPCでもBlenderは動きます。ただし「何をやるか」で快適度がまったく変わります。モデリング練習やチュートリアル動画の模写なら十分。一方で、数百万ポリゴンのシーンをCycles GPUレンダリングで回すような使い方は、正直に言ってミニPCの守備範囲外です。

ミニPCでBlenderは「入門〜中程度の用途」なら実用レベル。具体的には、モデリング・UV展開・簡易アニメーション・EEVEEプレビューまでは快適に動きます。推奨スペックの目安は8コア以上・32GB RAM・Radeon 780M以上の内蔵GPU。本記事では、このラインを満たすおすすめ2機種(GMKtec K11 / GEEKOM A8)を紹介します。

先に結論だけ知りたい方へ:筆者のイチオシはGMKtec K11です(理由は本文で詳しく解説しています)。

ミニPCでBlenderは使えるのか——結論と条件

使えます。ただし条件付きです。

Blender公式サイトが掲げるシステム要件を見ると、最小構成は「4コア・8GB RAM・2GB VRAM(OpenGL 4.3対応)」、推奨構成は「8コア・32GB RAM・8GB VRAM」となっています(2026年4月時点、Blender公式Requirementsページより)。最近のミニPCはRyzen 9 / Ryzen 7クラスのモバイルCPUを積んでいるため、CPU・メモリに関しては推奨ラインを普通にクリアできます

問題はGPUです。

ミニPCの多くはCPU内蔵グラフィックス(iGPU)しか持っていません。Radeon 780MはiGPUとしては優秀で、3DMark Time Spy Graphicsで約3,000点を出します。ただ、これはNVIDIA GeForce GTX 1650にも届かない水準。Blender Open Dataでの中央値スコアは約265で、RTX 4060の約4,700とは文字通り桁が違います。

項目Blender最小要件Blender推奨要件ミニPC(K11 / A8)
CPU4コア(SSE4.2)8コア8コア16スレッド ✅
メモリ8GB32GB16〜32GB ✅
GPU VRAM2GB(OpenGL 4.3)8GB共有メモリから割当(最大6GB程度)⚠️
GPUアーキテクチャGCN 4th gen以降RDNA 3(Radeon 780M)✅

このテーブルを見ればわかるとおり、CPUとメモリは余裕でクリア。GPUだけが「最小はOK、推奨には届かない」というポジションです。つまりミニPCでBlenderを使う=GPU性能の制約とどう付き合うかがテーマになります。

正直、筆者もBlender目的でミニPCを選ぶと聞いたときは「さすがに厳しくない?」と思いました。でも実際にK11(Ryzen 9 8945HS / Radeon 780M / 32GB)でBlenderを触ってみたら、モデリングやUV展開はサクサク動くし、EEVEEのリアルタイムプレビューもフルHD程度なら十分実用的。「思ったより全然いけるじゃん」が素直な感想です。Cyclesでの最終レンダリングだけは覚悟が要りますが。

Blender公式の必要スペックをミニPCに当てはめる

ここからは、Blenderが要求する各スペックをミニPCの実力と突き合わせて見ていきます。

CPU——8コア以上ならミニPCでも推奨ライン

Blenderでは、スカルプトやシミュレーション演算、CPUレンダリングでマルチコア性能が効きます。GMKtec K11が積むRyzen 9 8945HSは8コア16スレッド、最大5.2GHz。CINEBENCH R23のマルチスコアは約16,700で、これはデスクトップ向けCore i5-13400(約11,800)を大きく上回る数値です。

GEEKOM A8のRyzen 7 8745HSも同じ8コア16スレッドで、クロックがやや控えめ(最大5.1GHz)なだけ。CPU性能で足を引っ張られることは、どちらの機種でもまずありません。

メモリ——16GBだと途中で詰まる。32GBが安全圏

Blenderはシーンの複雑さに比例してメモリを食います。ローポリの練習モデルなら8GBでも足りますが、テクスチャを貼ってパーティクルを飛ばし始めると16GBでもスワップが発生することがあります。

筆者の経験則では、16GBだと「50万ポリゴン+4Kテクスチャ2枚」あたりからメモリ使用率が90%を超える場面がありました。32GBあれば同じシーンでも60%台で安定するので、できれば最初から32GBモデルを選んだほうが後悔しません。

GMKtec K11は32GB(DDR5-5600)が標準構成。GEEKOM A8は楽天のモデルが16GB構成なので、Blender用途なら32GBモデルを選ぶか、自分でメモリ増設する前提で考えてください。

GPU——内蔵GPU(Radeon 780M)でどこまで戦えるか

ここがミニPCでBlenderを使ううえで最大の論点です。

Radeon 780MはRDNA 3アーキテクチャの内蔵GPUで、12基のCompute Unitを持っています。Blender公式のOpen Dataによると、780Mのベンチマーク中央値は約265。参考までに、RTX 3060は約2,800、RTX 4060は約4,700です。

この数字だけ見ると絶望的に思えますが、実際の使い勝手はもう少しマシです。Blenderでの作業は大きく「ビューポート操作(モデリングなど)」と「最終レンダリング」に分かれます。ビューポートの操作性はGPU性能の影響を受けるものの、体感的にはRadeon 780Mでも数十万ポリゴン程度まではストレスなく動かせます。EEVEE(リアルタイムレンダラー)でのプレビューも、フルHD解像度・中程度のシーンなら20〜30fps前後は出ます。

つらくなるのはCyclesでのGPUレンダリングです。dGPU搭載機なら数分で終わるカットが、iGPUだと数十分かかることも珍しくありません。ぶっちゃけ、Cyclesの最終レンダリングを頻繁に回す人にミニPCは向いていません。

⚠ ミニPCの限界ライン:Radeon 780MはBlenderの最小GPU要件(OpenGL 4.3 / 2GB VRAM)は満たしていますが、推奨の8GB VRAMには届きません。VRAMはメインメモリから共有割当(最大約6GB)されるため、大きなテクスチャやHDRI環境マップを複数読み込むとVRAM不足でレンダリングが失敗するケースがあります。

用途別「ミニPCで大丈夫なライン」と「厳しいライン」

結論から言うと、Blenderの用途を4段階に分けたとき、ミニPCが快適なのは下2つです。

用途レベル具体的な作業内容ミニPCでの快適度
入門・学習チュートリアル模写、ローポリモデリング、基本操作の習得◎ 快適
軽〜中程度の制作〜50万ポリゴン程度のシーン、EEVEEでの静止画レンダリング、簡易アニメーション○ 実用的
中〜重めの制作100万ポリゴン超のシーン、Cyclesレンダリング、パーティクル/流体シミュレーション△ 待ち時間が発生
本格プロダクション大規模シーン、4K Cyclesアニメーションレンダリング、VFX合成× 非推奨

個人的には、「入門・学習」と「軽〜中程度の制作」がミニPCの守備範囲だと考えています。Blenderのスキルが上がって作品の規模が大きくなったら、そのときにdGPU搭載機へ移行すればいい。最初からフルスペックのタワーPCを買って、途中で3DCGに飽きてしまったら10万円以上が無駄になります。

編集部メンバーの一人は、最初からRTX 4070搭載のBTOデスクトップを20万円で買いましたが、Blenderを3ヶ月で触らなくなりました。「まずはミニPCで始めて、ハマったら投資する」というアプローチの方が金銭的リスクは低いです。ミニPCなら普段使いのPCとしても十分すぎる性能がありますし。

Blender向けミニPC おすすめ2機種【2026年版】

ミニPCでBlenderを使うなら、現時点では以下の2機種が有力候補です。選定基準は「Blender推奨スペック(8コア/32GB RAM)をどこまで満たすか」「GPU性能」「拡張性」「価格」の4軸で評価しました。

【1位】GMKtec K11——32GB標準&Oculink拡張で”長く使える”1台

GMKtec NucBox K11

Ryzen 9 8945HS(8コア16スレッド/最大5.2GHz)に32GB DDR5メモリ、1TB SSDを標準搭載。Blender推奨スペックのCPU・メモリをそのまま満たす構成です。さらにOculinkポート搭載で、将来的にeGPU(外付けグラフィックスボード)を接続すれば、CyclesのGPUレンダリング性能を大幅に引き上げられます。「今は入門用、将来は本格運用」という段階的なアップグレードが可能な点が、他のミニPCにはない強み。

主なスペック(2026年4月時点)
CPU:AMD Ryzen 9 8945HS(Zen4 / 8コア16スレッド / 最大5.2GHz)
GPU:Radeon 780M(RDNA 3 / 12CU)
メモリ:DDR5-5600 32GB(16GB×2 / 最大96GBまで増設可)
ストレージ:1TB PCIe 4.0 NVMe SSD(M.2スロット×2)
拡張:Oculink×1、USB4×2(PD/DP対応)
OS:Windows 11 Pro
サイズ:132×125×58mm / 約620g
価格:楽天 約12.5万円〜(クーポン併用時)

32GB RAMが標準でBlender推奨ラインを即クリア
・Oculink搭載でeGPU拡張の道がある
・CINEBENCH R23マルチ約16,700の高いCPU性能
・USB4×2で映像出力・高速データ転送も対応
・M.2スロット×2でストレージ追加も容易

・ミニPCとしては価格がやや高め(12.5万円〜)
・GPU(Radeon 780M)は内蔵GPUなのでCyclesレンダは遅い
・eGPUドックは別途7〜8万円かかる

【2位】GEEKOM A8——10万円台前半で始める入門機

K11ほどの拡張性はいらない、まずはできるだけ費用を抑えてBlenderを試したい——そんな人にはGEEKOM A8が選択肢に入ります。

CPUはRyzen 7 8745HS(8コア16スレッド/最大5.1GHz)で、K11のRyzen 9 8945HSとの性能差は実測で5〜10%程度。体感でわかるような差ではありません。GPUも同じRadeon 780Mなので、Blenderでのビューポート操作やEEVEEレンダリングの快適度はほぼ同等です。

注意点は、楽天で販売されているモデルが16GB RAM + 1TB SSD構成であること。Blender推奨の32GBを満たすには、自分でメモリを増設するか、32GBモデル(Amazon等で販売あり)を選ぶ必要があります。メモリ増設自体は裏蓋を開けてSO-DIMMを差し替えるだけなので難しくはありませんが、一手間かかる点は理解しておいてください。

主なスペック(2026年4月時点)
CPU:AMD Ryzen 7 8745HS(Zen4 / 8コア16スレッド / 最大5.1GHz)
GPU:Radeon 780M(RDNA 3 / 12CU)
メモリ:DDR5 16GB(楽天モデル。32GBモデルも存在)
ストレージ:1TB PCIe 4.0 NVMe SSD
拡張:USB4×1(PD/DP対応)※Oculinkなし
OS:Windows 11 Pro
サイズ:約135×132×47mm
価格:楽天 約10.9万円〜

・K11より2〜3万円安く、Blender入門のハードルが低い
・CPU/GPU性能はK11とほぼ同等
・全金属製ボディで冷却性能が安定
・USB4対応で映像出力も可能

・楽天モデルは16GB RAMのため、Blender用途では増設推奨
Oculinkポートがないので将来のeGPU拡張が難しい
・K11比でCPU性能が5〜10%低い

予算を抑えてBlenderを始めるなら
GEEKOM A8はRyzen 7 8745HS搭載で10万円台前半。まずは試してみたい人に。

GEEKOM A8の詳細を楽天で見る

個人的な使い分けの基準を書いておくと、「Blenderにハマる可能性が高い or 長期的に使いたい人はK11」「まず試してみたい or 3DCG以外にも汎用的に使いたい人はA8」です。どちらを選んでも入門〜中程度の作業には十分対応できます。

比較項目GMKtec K11GEEKOM A8
CPURyzen 9 8945HSRyzen 7 8745HS
GPURadeon 780MRadeon 780M
メモリ(標準)32GB DDR516GB DDR5
Oculinkあり(eGPU拡張可)なし
USB4×2×1
楽天価格(税込)約12.5万円〜約10.9万円〜
Blenderおすすめ度★★★★☆★★★☆☆

※価格は2026年4月時点。セール・クーポンにより変動します。最新価格は各リンク先でご確認ください。

「ミニPCじゃ足りない」と感じたときの拡張ルート

ミニPCでBlenderを使い始めて、スキルが上がってくると「もっとレンダリングを速くしたい」「もっと重いシーンを扱いたい」という欲求が出てきます。そのとき、いきなりタワーPCに買い替えなくても済む拡張ルートが2つあります。

Oculink / USB4でeGPUを繋ぐ

GMKtec K11にはOculinkポートがあります。ここにeGPUドック(外付けグラフィックスボードの箱)を繋げば、デスクトップ用のdGPUを利用可能です。

たとえばGMKtec純正のeGPUドック「AD-GP1」(RX 7600M XT搭載、約7.7万円)を接続した場合、3DMark Time Spy Graphicsスコアは内蔵GPU比で3倍以上に向上します。これはRTX 4060に匹敵する性能で、CyclesのGPUレンダリング時間が大幅に短縮されます。

USB4経由でのeGPU接続も技術的には可能ですが、帯域がOculink(PCIe 4.0 x4)に比べて狭いため、性能のロスが大きくなります。eGPU前提で買うなら、Oculink搭載のK11を選んだほうがいいです。

素直にdGPU搭載デスクトップに移行する判断基準

eGPUドック込みで20万円を超えるなら、最初からRTX 4060〜4070搭載のBTOデスクトップPCを買ったほうがコスパは良くなります。

移行を考える目安は以下の3つです。

  • Cyclesでのレンダリングを週に何度も回すようになった
  • シーンの規模が常時100万ポリゴンを超えている
  • 流体やクロスのシミュレーションを多用している

逆に、EEVEEメインで制作している人や、モデリング・テクスチャペイントが中心の人は、ミニPCのままでも長く使い続けられます。

筆者の本音を言うと、「Blenderを本格的にやるなら最終的にはdGPU搭載機が理想」です。ただ、入門〜学習段階でいきなり15〜20万円のPCを買うのはハードルが高い。ミニPCはそのハードルを下げてくれる”入口”として優秀だと思っています。K11のOculink拡張なら、段階的に投資できるのも地味にありがたい。

ミニPCでBlenderを使うときのNG行動3つ

最後に、ミニPCでBlenderを使ううえで避けたい失敗パターンをまとめます。

NG① メモリ8GBのミニPCを買う
「Blender最小要件が8GBだから大丈夫」と思って8GB機を買うと、OS自体が3〜4GB消費するため実質4GB程度しか残りません。Blenderを起動しただけで限界に近づきます。最低16GB、できれば32GBは確保してください

NG② Intel N100系の格安ミニPCで挑む
2〜3万円の格安ミニPCに多いIntel N100(4コア/4スレッド)は、Blender最小要件のCPUはギリギリ満たしますが、GPU性能が壊滅的に低い(3DMark Time Spy Graphics 約320点)。ビューポートのカクつきが酷く、学習用としてもストレスが溜まります。

NG③ Cyclesレンダリング速度に期待しすぎる
SNSで見かける「5秒で高品質レンダリング!」のような作例は、ほぼ確実にRTX 4070以上のdGPU環境です。ミニPCのiGPUでは同じシーンに数十分かかることを覚悟してください。EEVEEなら数秒〜数十秒で済むことが多いので、ミニPC環境ではEEVEEをメインレンダラーにするのが現実的です。

よくある質問

ミニPCでBlenderのCycles GPUレンダリングはできる?

できますが、遅いです。Radeon 780MはHIP(AMD GPU用レンダリングバックエンド)に対応しているため、CyclesのGPUレンダリング自体は動作します。ただし、RTX 4060と比較してレンダリング時間は10〜20倍程度かかるケースもあります。EEVEEを主に使い、最終出力だけCPUレンダリング(8コアなら実用速度)にするのが、ミニPCでの現実的な運用法です。

Blender用途で16GB RAMと32GB RAMはどれくらい違う?

体感で明確に差が出ます。16GBでは、テクスチャ付きの中規模シーン(50万ポリゴン程度)でメモリ使用率90%を超えることがあり、操作中にカクつきが発生します。32GBなら同じシーンでも60%台に収まり、ブラウザやリファレンス画像も同時に開けます。Blender用途なら32GBを強く推奨します。

GMKtec K11とGEEKOM A8、Blender目的ならどっちが良い?

予算と将来の拡張性で選んでください。K11は32GB RAM標準+Oculinkで将来eGPU接続可能という”伸びしろ”があります。A8は価格が2〜3万円安いぶん、メモリが16GB(楽天モデル)でOculinkもないため拡張性は劣ります。Blenderに本気で取り組む予定ならK11、まず試したいだけならA8が筆者のおすすめです。

ミニPCにeGPUを付けたらデスクトップ並みになる?

なりません。eGPUはPCIeの帯域がデスクトップ内蔵スロットより狭い(Oculinkでもx4接続)ため、dGPU本来の性能の80〜90%程度しか発揮できません。それでも内蔵GPUとは比較にならないほど高速になるので、「デスクトップPCの8割くらいの性能を省スペースで得る」という目的なら十分価値があります。

まとめ——ミニPCとBlenderの”ちょうどいい距離感”

ミニPCでBlenderは使えます。ただし、万能ではありません。

この記事の要点を整理します。

・ミニPCはBlenderの「入門〜中程度の制作」に実用的。モデリング、UV展開、EEVEEレンダリングまでは快適に動く
・スペックは「8コア / 32GB RAM / Radeon 780M以上」がライン。Blender公式推奨を満たすにはGPUだけがネック
・おすすめはGMKtec K11(32GB標準・Oculink拡張可)。予算重視ならGEEKOM A8
・Cyclesの重いGPUレンダリングはiGPUの苦手分野。EEVEEをメインに使うか、eGPU拡張で補う
・「まずミニPCで始めて、ハマったら投資する」が最もリスクの低い入り方

正直なところ、「Blenderやるならタワー型のゲーミングPCを買え」というのが業界の定説です。それは正しい。でも、誰もが最初から15万円・20万円を出せるわけではないし、デスクの上にフルタワーを置けるわけでもない。

ミニPCは、そういう制約を持った人がBlenderに”最初の一歩”を踏み出すための現実的な選択肢です。スキルが上がれば環境もアップグレードすればいいだけの話。まずは手を動かすこと——それが一番大事です。